今日河原町へ行く途中で学生ぐらいの若い男の子二人連れに七、八十歳ぐらいのおばあさんが泣き声をあげながら何かを話しているの光景を見かけた。片方の男の子がおばあさんに「500円ですか」と聞き返していたのが耳に入った瞬間、以前私に「500円貸してください」と路上で言ってきたおばあさんを思い出した。このばあさんはまさにそのばあさんであったのだ。おそらくその男の子にも同じことを言っていたのだろうが、そのおばあさんが本当にお金に困っていたかどうかはまゆつば物である。
そのばあさんから声をかけられたのは昨年の秋の涼しいころだった。日が沈んで暗くなったときに東本願寺近くの路上を歩いているといきなり後ろから「おにいさん」と声をかけられた。振り返るとそのおばあさんがいて
「500円貸してください」
と言われた。私が返事をすると
「お金がなくなって帰れなくなった」
と言ったのだ。最初はこのおばあさんが本当に困っているのかと思った。しかし泣き声を上げなら死にそうな様子で
「寒くなって暗くなって困った」
「もし帰れなかったらどうしよう」
などと言ってやたらと深刻そうな状況へ事が運ばれるのと、どこへ帰ろうとしているのかはっきりとしないことから、私は半信半疑であった。
このおばあさんが本当に困って泣いているのか、それとも演技して泣いているのかよくわからなかった。段々とこの人を相手にするのが面倒になってきて、「500円でこの人から逃れられるなら払ってその場を去っても良いか」と一瞬思ってしまった。しかし500円あれば1回の外食の代金ぐらいになるのでお金を渡すのははばかられた。収入のない私からお金を渡してしまうのが悔しかった上に、近くに七条警察署がありいざとなればそこで小銭を借りられるだろうと思ったので、結局私は金を払わずにその場を去った。
今振り返ってみるとあの時金を払わずにその場を去って良かったと思っている。また、おばあさんの「500円貸してください」という声掛けに対してまともに相手にしてしまったことを後悔している。このおばあさんの方が私よりもはるかに人生経験が長い。おそらくこのおばあさんはその道のプロであり、まだ人生経験の浅い私など簡単に言いくるめてしまうだろう。そうなれば私が何を言ってもまともに太刀打ちできるものではない。悔しいが、こういった状況では「逃げるが勝ち」であり、金を貸してほしいと言われたときにその人を相手にしないのが一番の得策といえるだろう。
今日声を掛けられていた男の子は二人とも真面目でおとなしそうな男の子であった。おそらくそのようなやさしそうな人ばかりが声を掛けられるのではないかと思う。私はおばあさんに応対していなかった方の男の子にそっと「あのおばあさんはいつもああやってお金をとろうとするから相手にしないほうがいいですよ」と伝えてその場から去った。その後それらの男の子がどうなったかはわからない。非常に気になるところである。

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